最適なプレゼント~オルゴール~

久しぶりに会う彼女は、あきらかに不機嫌そうだった。
ひとまず、旅行のおみやげとして、チョコ菓子を渡す。
甘いものが好きな彼女だったけれど、それほど嬉しそうでもない。

やっぱり不機嫌?

一応、ごめんね、と謝りつつ、理由を聞いてみる。
せめて誕生日の日、一番におめでとうの電話をするとか、
誕生日の夜くらいはゆっくり電話するとか、
そんなことだけでも期待していたのだという。
おれは、そんなこと気がつきもしなくて、
自分にしてはセンスあるかもなプレゼントに満足していただけだった。
口まかせに、 「おめでとうは、直接顔を見て言いたかったから・・・。」
と、言い訳し、おめでとう、と旅館の紙袋を渡した。
それを見た彼女は、明らかに不審な顔をしたのを、おれは見逃さなかった。
そりゃ、○○旅館と名前が入った地味な袋を渡されたら、
おれだって同じ顔をしていたかもしれない。
紙袋からオルゴールを取り出した彼女。
一瞬、何かわからなかったようだったけれど、
それがオルゴールだとわかると表情が変わった。 「かわいい・・・。」
と思わずこぼれた言葉は嘘ではないだろう。
手回しで金具をくるくる回すと、さすがはアナログ。
曲の途中から始まった。
おれが旅館でさんざん回して曲を聴いてたからな。
回し方もぎこちないから、最初はなんの曲かわかっていないようだった。
しばらく回して、曲が最初にもどり、
やっと『First Love』だとわかったみたいだ。
彼女がオルゴールを回す手を止めたと思ったら、彼女の目から涙が!!!
あまりのしょうもなさに情けなくなったのか、
安物だとばれたのか、おれが一瞬の間にすごく不安になっていると、彼女が小さな声で、
「ありがとう。」 と言ってくれた。
どうやら嬉し泣きだったようだ。
これほどまでは喜んでもらえると思っていなかった。
おれの最初のプレゼントは大成功。
と、いうか、このときの彼女の反応が、
後々のおれの行動に影響してしまうとは、思ってもいなかったのだけれど。